第0巻 神野元次郎さん
ことのは不動産をはじめて丸10年。これまでたくさんのお客様と物件を通して出会ってきました。そしてそのなかの多くの方々と、お客様と不動産屋という立場を越えて今もお付き合いが続いています。未熟なわたしが細々ながらこれまで続けてこられたのはそんなお客様との縁のおかげ。(ほんとに自分でも不思議なくらい縁と運には恵まれているのです!)
そんなことのは不動産の命脈ともいえる人とのつながりのこと、魅力的なお客様おひとりおひとりの物語をなにかにまとめたいと思いながら時ばかりが過ぎていたのですが、これまた不思議なご縁で、書き手はぜひこの方にと思うような出会いがあり、このコラム「縁のことぶれ」を始めることができました。
コラムの執筆をお願いするのは、金沢市長町のアパート「すみれハウス」にある本屋『6号室』を主宰する神野元次郎さん。週末にお店を開く傍ら、専門の美術批評をはじめとした執筆業もされています。
宮崎県出身の神野さんは、東京の大学で哲学を学んだ後、2020年に金沢美術工芸大学の大学院へ進学するのを機に、金沢に越してきました。その頃はパンデミック真っ只中。大学院での授業や研究もすべてリモートで、ほかの院生とのリアルな交流が持てないなか、住まいとして借りた「すみれハウス」の6号室で一人考えていた生きる意味とケアのこと、そして数少ない外との接点だった「すみれハウス」の入居者間とのつながりやアルバイト先の「オヨヨ書店」さんでの出会いが神野さんに大きな影響を与えました。
次第にコロナが終息して社会が元に戻っていくにつれ、混乱の中で浮き彫りになったさまざまな問題が再び見失われていくのを感じながら、なにか自分にできることを考えていたとき、のちにお店の内装デザインを依頼することとなる同世代の友人・頼安さんとたまたま出会ったことも後押しとなり、本を媒介としたケアのための場所として、住んでいた部屋を開き、『6号室』を始めることになります。
『6号室』はちょっと変わったスタイルの本屋さん。大きなひょうたん型のテーブルが部屋の中心にあり、それを取り囲むように神野さんにゆかりのある選書人がセレクトした本が並びます。壁の出っ張りや手すりの枠などこの部屋に元々あったものをそのまま取り込んだ本棚はコーナーごとに趣向が異なり、その見せ方にも選書人それぞれの思想が表現されていて、さらにまたその選書人の方々の背景には店主である神野さん自身の姿も見えてくるような気がします。
オープンから1年。この場所で何かやってみたいという声に応えるかたちで、今年度からはレンタルスペースとして場所を提供することも始めました。
偶然の重なりから『6号室』という場を開き、またそこでの人との出会いをゆっくりと紡いでいる神野さんに、ことのは不動産のあり方を重ねて、このコラム「縁のことぶれ」を神野さんに託したいと思いました。
神野さんの言葉を通して描かれるお客様おひとりおひとりの物語から、また何かしらの新たな種が生まれることがあれば嬉しい限りです。
文=ことのは不動産 松本有未